初対面のイタリア人に、ホロスコープは何座かと聞かれることがあります。いえ、「聞かれる」というより「当てたがる」という方が正しいかもしれません。たったいま知り会ったばかりなのだから、こちらの性格もよく分かっていないだろうと思うのですが、とにかく当たるまで十二星座を言い続けます。
改めて日常を見渡してみると、イタリアの新聞には毎日星座占いが載り、朝のニュース番組ではその日の運勢が流れ、また何時間もかけて翌年の運勢をホロスコープで占う大晦日のテレビ番組が人気だったりと、イタリアでもホロスコープ占いはたいへんポピュラーなようです。
イタリア特有の占いといえば「スモルフィア(La Smorfia)」があります。「スモルフィア」とは、もともとはナポリ発祥の夢占いのことで、「ロット(Lotto)」という賭け事の時に用いられていました。スモルフィアは辞書形式の本になっているので、夢で見た内容を本の中から探し、そこに書かれている1から90までの数字をチェックします。
さらに「ロット」とは、数を当てる宝くじのことです。遊び方はいたって簡単で、ロット売り場に設置されている専用の用紙の1から90までの中の好きな数字に印をつけます。そしてその場で機械で読み取ってもらい、お金を支払って終了です。日本でも、自分の好きな数字を選ぶことができる宝くじがありますが、それとやり方は同じです。会計の時に受け取ったレシートは、当選番号が発表されるまで大切に保管しておきます。当選番号はなんと、国営放送のRAIで毎晩8時から始まるニュース番組内で発表されます。
ロットは、街のタバッキで購入することができます。ブルー字に大きな白い文字で「T」と書かれている看板が掲げられている店がタバッキです。たいていのタバッキでは、ロットの売り場の傍らにスモルフィアの本が置かれているので、その本の中から夢に出てきたものを探します。
例えば昨夜、電車で通勤している夢を見たとします。そこで「電車」を調べてみると「電車に乗車している状態の場合」は「13」、「駅で停車中の場合」は「69」、「走行中の電車の場合」は「90」と書かれています。夢で見たのは電車に乗って通勤している状態ですから、「13」が該当する番号となります。そこでロットの用紙の「13」をマークする、という流れになります。
しかしより正確に当てるには、できるだけ細かく夢を思い出し、分析する必要があるようです。例えば、「電車」というキーワードだけでなく、女友達と一緒だったとか、窓際に立っていたとか、窓から鳥が飛んでいるのが見えた、などどいう細部まで思い出すことができたら、「電車」「女友達」「窓際に立つ」「窓」「飛んでいる鳥」のそれぞれの単語の数字をすべて調べ、その中のどの数字を選ぶかを検証します。ロットで大儲けするには、スモルフィアの本以外にも経験と勘が必要とされるようです。
夢を見た日は必ずロットを買うというシニョーラがいたので、夢の内容を覚えていない日はどうするのかと聞いてみると、「そんな日は買わない」と一言。「買わなきゃ当たらないけど、夢を覚えていないということも運命だから」だそうです。もしロットの売り場で、スモルフィアの本を前に深刻な顔をしている人を見かけたら、昨日見た夢を必死に思い出そうとしているのだと思って間違いないでしょう。
スモルフィアの本は、イタリアの家庭では一家に一冊はあるといってもいいくらい、広く親しまれている本です。本には数字だけでなく簡単な夢の解釈も書かれているので、一般的な夢占いとしても愛用されているのでしょう。
「スモルフィア」の名前の由来は諸説ありますが、古代ギリシアの夢の神?モルフェオ(Morfeo)からきているという説があります。宝くじに夢を託したい人は、夢の神様を語源に持つ夢占いの本に運を任せてみるのも面白いかもしれませんね。
参考:Gruppo Edicart社「L’antica e vera Smorfia con le originali carte dei Sogni」1997年版