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- 【グルメ・ドリンク】こんなお菓子が今、旬です【イタリア】
ヨーロッパの春を告げるイベントといえば復活祭(La Pasqua)です。移動祝日で、今年は4月20日となります。「復活祭」とは、キリストが処刑された3日後に復活し、弟子たちの前に姿を現したことを祝う日です。カトリックの国イタリアではクリスマスと並んでもっとも重要な日とされ、各地の教会では特別な礼拝が行われたり、地域独自のお祝いの行事が行われます。
そしてこの日を境に実質上の本格的な春の到来とされ、同時にバカンスシーズンが近づいたことを実感します。観光都市フィレンツェでは、復活祭の時期を境に観光客、特に北部、中部ヨーロッパの人々の姿を多く目にするようになります。温暖な気候で安定したこの時期にフィレンツェを訪れる人たちの多くはすでに半袖にサンダル姿で、思いっきり太陽の光を浴びて春を満喫しているようです。
復活祭の軽やかで明るいお祭りムードの中、この時期ならではのお菓子が街のウィンドウに溢れます。ひよこや卵、ウサギをかたどったチョコレートや、イタリア語で「鳩」という意味の「コロンバ(Colomba)」という名前の焼き菓子が復活祭独自のお菓子として有名です。これらの動物がかたどられているのは、ひよこや卵は生命の再生を、ウサギは多産と豊穣を意味し、鳩はもちろん平和の象徴であるためです。キリスト教のエピソードの中にもよく登場する、重要なシンボルたちです。これらのお菓子はイタリアのどの街でも見かけることができますので、今回はフィレンツェ特有の復活祭のお菓子をご紹介します。
そのお菓子の名前は「クアレジマーリ(Quaresimali)」といいます。「四旬節」という意味で、カトリックでは復活祭前の40日間のことを指します。私たち日本人にはあまりなじみのない言葉ですが、このお菓子を店頭で見ることができるのはこの期間限定で、まさに復活祭のためのお菓子なのです。
フィレンツェのクアレジマーリの特徴は、ひと目で分かるその形です。一つ一つがアルファベットの形をしていて、遊び心をくすぐられます。形がアルファベットである理由は諸説ありますが、一説には福音書の言葉を忘れないためと言われています。発祥の地であるフィレンツェや隣町のプラートでは、子供の頃にこのクゥアレジマーリで遊んだことのない人はいないというほどポピュラーなお菓子です。きっと自分の名前や、好きなサッカー選手の名前などを組み立てて遊んだことでしょう。
お店で購入する時に「一度袋を開けたら最後、手が止まらなくなるよ」と言われましたが、カカオのシンプルな味だけなのに、後を引くようなしつこさがなく飽きがきません。また、カリカリサクサクとした歯ごたえで非常に軽く、カカオのほろ苦さとかすかな甘さが病みつきになりそうです。オリジナルの製造法は、小麦粉に卵の白身、砂糖、カカオの粉を混ぜて釜で焼いただけの素朴なもの。19世紀にフィレンツェやプラートの修道院で作られたのが起源とされていますが、カトリック教会の「七つの大罪」にある「暴食の罪」に触れてしまいそうな美味しさです。
「クアレジマーリ」という名前のお菓子はフィレンツェ以外の街にも存在し、それぞれ異なるお菓子として親しまれています。例えばナポリでは、アーモンドが中に詰まった焼き菓子で、ナツメグやシナモン、バニラなどの豊かな香りが漂います。また、ジェノヴァのクアレジマーリは、こちらもアーモンドを使った焼き菓子ですが、パステル系の色つき砂糖で飾り付けがしてあり、より華やかで洗練された印象を受けます。
キリストの復活を祝う復活祭。この悦ばしい日をより明るく盛り上げて祝うために、それぞれの街で特別のお菓子が作られ、それに「クアレジマーリ」という縁起のいい名前をつけてきました。カトリックのイベントの中でももっとも荘厳といわれる復活祭ですが、人生を楽しむことを忘れないイタリア人の手にかかると、このように美味しく遊び心のあるものになってしまうようです。