ポーランドでは日本の桜に相当する「春を象徴する花」が1種類だけではなく、数種類あります。それらの花は意外なほど、日本でも馴染みのある花ばかりです。カトリック教徒が多数を占めるポーランドではイースターを過ぎたら春と考えるので、その頃に登場する花をイースター前に飾るようになり、それが定着していったと思われます。今回はイースターに欠かせない春を象徴する花を中心にご紹介します。
春に欠かせない花、水仙(żonkil)
街中を歩くと、レストランの店頭やショーウィンドウに鮮やかな黄色い花が飾られています。それが水仙です。切り花として売られているものは日本でもおなじみの大きさですが、鉢植えだと、随分と小型で可憐です。花屋では堂々と手前に置かれ、普段は花など売らないスーパーでさえ、入り口の近くに販売されています。多くの家庭でイースター前に飾られ、水仙がないと春がやって来ない、と感じられる程大切な花です。
懐かしい気持ちになる、ヒアシンス(Hiacynt)
ポーランドで初めてヒアシンスを見たのは、主人の実家でした。イースターで帰省すると、水栽培のヒアシンスが5分咲きの状態でした。これを見て急に懐かしさが込み上げてきたのを覚えています。小学生の時、授業の一環でヒアシンスを育てたからです。この日本で馴染みの花もやはり春を感じさせる花として、イースター時期の家や庭を飾ります。
寒さに強い、パンジー(Bratek)
公園が多いワルシャワですが、冬の間、公園の花壇は土を霜などから守るために緑の葉で覆われています。それが春になると覆いが取られ、寒さに強い花が最初に植えられます。その代表がパンジーです。4月でも夜は気温がマイナスになり、時々雪が降ることもあるので、パンジーの様に丈夫な花ではないと屋外で育てられません。この時期は、様々な色をしたパンジーを公園やレストランの店先で観賞できます。丈夫な花なのでガーデニングをする人に人気があり、市場ではパンジーだけを扱っている店があるほどです。偶然見つけたレストラン前のパンジーは小ぶりで、1つの花から2色の花びらが生えていて不思議でした。
春の象徴、猫柳(Bazie Kotki)
猫柳はポーランド語でも「猫の柳」と言います。イースターの前日に籠にイースターエッグやハムなどを入れて教会で清めてもらいますが、その籠を飾る花の定番として活躍しています。またイースターの1週間前にイースターパームの飾りを清めてもらいますが、その飾りの中にも猫柳を入れたりします。最初、猫柳は花と考えていいのか疑問でしたが、街中で見かけた猫柳は見事に黄色い花が咲いていました。調べると猫の毛みたいなものは花穂で、雄花と雌花があることを知りました。世界中に数百種類の柳があるそうですが、ポーランドでは30種類存在し、身近な植物となっています。
余談ですがワジェンキ公園にある有名なショパン像は、風に揺れるしだれ柳の下に座り、故郷の自然に耳を傾ける様子を表現しているそうです。日本では柳と言えば幽霊のイメージがありますが、ポーランド語でしだれ柳は「泣いている柳」と言い、悲しげな感じのする木なんだそうです。故郷に思いを馳せるショパンの音楽に柳は合っていると思います。
明るく陽気な雛菊(Stokrotka pospolita)
日本では菊と聞けば、葬儀やお墓に添える花ですが、一方この菊をあしらった模様は皇室の紋章や国会議員のバッジにも使われていて、厳粛で歴史がある花なので、日本古来の花かと思っていましたが、ポーランドでも同じく菊をお墓にお供えするので、驚いたものです。菊は平安時代の初め頃、中国から日本に渡ったようですが、ヨーロッパへは200年ほど前に渡ったようです。なぜポーランドでお墓に菊をお供えするようになったのかは分かりませんが、こちらのお墓で菊を見る度に、親近感を覚えます。
さて、今回ご紹介するのは雛菊です。イタリアの国花になっているようで、ポーランドでも明るく陽気な花のイメージです。雛菊は花びらが八重桜のように重なり、立体感のある可愛らしい花です。春になるとピンクや白、赤の花を咲かせ、春の街を明るく楽しい気分にしてくれる花です。
花だけ顔を出すユニークなクロッカス(krokus)
クロッカスは、先に地面から花だけ顔を出し、葉は後から出てくるユニークな植物です。街中の花壇に植えられることもありますが、山岳地帯では野生種が生え、春の訪れを知らせてくれます。地面すれすれに生えているので、歩く際は踏まないように気をつけなければなりません。野生のクロッカスは、ハイキングシーズンの始まりを教えてくれる花です。
スズランに瓜二つ、スノーフレーク(Śnieżyca letnia)
スズランは例年5月ぐらいに開花する春満開の花ですが、3月末に高原を散策しているとスズランらしい白い花を見つけました。暖冬のせいで開花時期が早まったと思い、近くで見てみるとスズランにそっくりなスノーフレークという花でした。別名が鈴蘭水仙とのこと。そっくりな訳です。都市部ではあまり見かけませんが、高原地域ではスズランより1-2ヶ月早く開花する春を告げる花で、中央ヨーロッパ原産の植物です。花弁の先端に黄緑色の斑点があるのが特徴です。
春の味わい、ふきのとう(Lepiężnik japoński)
ふきのとうはスズランと並び、北海道の花のイメージが強いですが、こちらポーランドでも山岳地帯を中心に早春ぐらいから見かけます。確かにポーランドの気候は北海道に近く、知人の北海道出身者は、ポーランドの田舎へ行くと北海道と同じような風景を目にすると言っていました。きっと共通の植物が生えているからでしょう。枯葉の中からひょっこり顔を出したふきのとうは、春を強く感じさせる力を持っています。
ポーランドではふきのとうを食べる習慣はないそうです。私は春を味わいたく、採りたかったのですが、食べられるのはつぼみとのこと。この時すでに開花していたので、見て楽しむだけにしました。もう少し早ければ食べられたのに...と心残りです。