スイスのバーゼルが一年で一番盛り上がるのは、ファスナハトと呼ばれるカーニバルが行われるシーズン(ファスナハト:古高ドイツ語の「断食」を意味するfasta (Fastenzeit) と「夜」の意味の naht に由来)。日本ではあまり知られていませんが、スイス最大規模のカーニバルで「バーゼル=ファスナハト」とスイスや近隣国で認識されるほどの町のトレードマーク的なイベントなのです。
このイベントは、復活祭の46日前の灰の水曜日の翌週の月曜日から3日間行われます。変動性なので、年によって2月だったり3月だったりと日程は変動します。この行事をもって、長い冬が明けバーゼルに春が訪れるのです。
ファスナハトは、月曜日の朝4時のモルゲンシュトライヒMorgestraich(朝の灯火)で幕を開けます。この時間、中心部の全ての電灯が消され、町は暗闇になります。そして、午前4時にいっせいに灯篭に明かりがともされ、バーゼルファスナハト特有のピッコロとドラムの音が響きます。他の地域では、ブラスバンドが主流ですが、バーゼルではかわいらしい笛の音です。そのため、町の楽器屋さんのショーウィンドーは常にピッコロが飾ってあるんですよ。
3日間の間、町中の至る所でコンサートやイベントが行われるのですが、月曜日と水曜日の午後2時から約2時間はコータージュと呼ばれるパレードが行われます。市内は歩行者天国になり、大小さまざまな山車や音楽隊が参加します。各グループがその年の出来事などからテーマを決めて、その内容に合わせた衣装を身にまとい、山車も飾りつけされます。パレードの最中には大量の紙ふぶき、キャンディー、オレンジ、春の花が大盤振る舞いに街頭の見学者に配られます。パレードが終わる頃には、雪が積もったかのように道路が数センチの紙ふぶきで埋まるんですよ!
火曜日の午後は、子供のためのファスナハトで、メイン通りのフライエ通りを中心に仮装した子供たちが集まります。ここでは、家族規模などの小さい山車がパレードし、子供たちにたくさんのお菓子が配られます。
これらのパレードを見学するために見学料というものはないのですが、イベント参加グループの財政支援にまわされるBlaggeddeというバッチをキオスクや街頭の売り子から購入することが出来ます。毎年イベント実行委員会によってデザインされ、金(約4500円)、銀(約1600円)、銅(約800円)、(更にBijou約1万円もあるが、街頭では売っていない)の3種類があります。このバッチを付けて沿道にいると、お菓子や果物をもらう確立が高くなり、なしだとコンフェティと呼ばれる紙ふぶきの大量にぶつけられるという、まことしやかな噂もあります!ファスナハトの時期になると道行く老若男女ほとんどが洋服につけており、この行事がバーゼル人の生活の一部となっているのが窺い知れます。
パレードで物をねだるときに、かける言葉は「バギスWaggis」という言葉。これは、バーゼルファスナハトのキャラクターの名称です。バギスというのは、もともとお隣フランスはアルザスの日雇い労働者をさす単語。参加者の多くが、バギスのコスチューム、トリコロールカラーのスモッグとパンツに木製の靴、そして赤鼻に金髪の被り物をかぶっています(近年は色違いの変形版も出てきました)。ちなみに、ファスナハトをかたどったバーゼルのお土産にはバギスの絵がかかれています。
ファスナハトの期間に合わせて、バーゼルの学校は休暇。会社の多くも休みになります。地元民は何らかの形で参加しているので、仕事にもなりません。銀行の頭取であろうと、バーゼル人ならファスナハトで仮装して山車に乗っていますから。
普段は秩序を守り勤勉な人々ですが、この3日ばかりはお昼からお酒を飲んで音楽を聴いて、ファスナハト料理の玉ねぎキッシュと小麦粉スープと焼きソーセージで夜遅くまで思う存分にファスナハトを楽しみます。
そして木曜日の午前4時、3日間のファスナハトの幕が閉じます。夜が明けるまでに急ピッチで道路の紙ふぶきが片付けられ、次の日からは何事もなかったかのように通常運行。また1年後のファスナハトを楽しみに、日々の生活に戻ります。
来年度2015年は2月23日の月曜日に開幕です。本当に楽しめるイベントなので、是非バーゼルを訪れてみてください。