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【暮らし・住まい】医療事情 -スイスにおける自殺幇助について-【スイス】

 

編集_1_1スイスは医療も医療保険も充実しています。健康保険は国民皆保険制度はなく、各自でプライベートの保険に加入します。保険会社によって金額は変わってきますが、基本的に1年間で医療費を使うことが少なければ毎月の保険料は安くなります。なので保険料を安く設定するためにも健康でいるように、病気にならない生活を心がけています。病気の治療においても、十分な説明やカウンセリングが行われ、色々な選択肢があります。このように保険から治療法まで個人の選択肢のあるスイス。そして自らの死すらも、ここスイスでは選択肢があるのです。

 

自殺幇助を認める国

今月始め、末期がんのため余命半年と宣言され、自ら死を選ぶことを公表していたアメリカ人女性が、医師から処方された薬を飲んで亡くなりました。このニュースは日本のみならず、世界中で大きな話題になりました。
この際に「安楽死」と「尊厳死」という言葉を多く眼にしたことと思いますが、両者の違いをご存知でしょうか?
安楽死
積極的安楽死=第三者が薬物などを使って死期を早める
消極的安楽死=積極的な治療の中止(本人、第三者の判断)
尊厳死=患者の意思による延命治療の中止、自然死を待つ

報道では両方の言葉が良く理解されないまま利用されていることもありました。また、安楽死の解釈が国によっても違うこともあり(今回のアメリカの場合など)理解するのは少し難しいこともあります。
今回の件に関連して、日本のニュースを読んでいると、安楽死(以下、積極的安楽死として)が認められている国としてスイスが頻繁に登場していますが、これは間違いです。スイスでは安楽死は認められていません。しかし、古くから自殺幇助を法律で認めています。
積極的安楽死は、例えば医師が患者に薬を投与して死期を早めることなどですが、この第三者の手による死は禁止されています。死を希望する本人が自らの手で薬を飲むことを助ける、自殺幇助が認められているわけです。とはいえ、希望すれば誰でもというわけではなく、健康問題(不治の病、すでに病気が良くなる見込みのない末期状態)が理由でなければなりません。そして、自らの判断能力、実行能力が伴っていなければならないのです。そのために、いくつもの調査、カウンセリングが行われます。
スイスにはスイス人を対象とした自殺幇助のNGO「エグジット」と外国人も受け入れる「ディグニタス」という2つの団体が存在します。2013年度で約700人がこれらの団体の手をかりて亡くなりました。
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エグジットに死の手助けをしてもらった義理祖父

義理祖父は当時86歳でパーキンソン病でした。パーキンソン病にかかると、手足が震えたり筋肉が弛緩し、進行すると日常生活にも支障をきたします。しかし、まだそこまで進行しておらず、義理祖母と二人で生活していました。スイスでは同居するのは稀なケースで、年をとっても夫婦や一人で生活するのが一般です。近隣に住む子供達やデイケアーなどが生活をサポートしています。
ある日、夜中にお手洗いへ行こうとした義理祖父を義理祖母が支えきれずに、二人して転んでしまいました。大事には至らなかったのですが、このことが義理祖父が自ら死を望むようになったきっかけとなりました。
パーキンソン病は、頭はしっかりしていても、だんだんと体の自由が利かなくなってしまいます。そうこうしているうちに意識も混沌としてきます。義理祖父としては、治らない病気と分かった以上、意識が分からなくなってまで延命して欲しくはないし、そこまで自分の介護をすることで妻に負担をかけたくないという思いがあったのです。そこで、自殺幇助NGO「エグジット」に連絡をとりました。
「エグジット」では、年会費を払って会員になります。会員になって3年以内に自殺幇助を望む場合は、諸費用を負担しなければなりません。実際に自殺幇助を行うとなると、厳しい審査があり、健康状態や本人の意思、判断能力がしっかりと調べられます。その際には、勿論家族を含めたカウンセリングも行われます。
自分で与えられた薬を飲む判断力と運動能力があることが義理祖父が「エグジット」をとおして死を迎える条件でした。肉体はだんだんと衰えてきていたので、義理祖父としては手はずが整えばすぐにでもという感じでした。自殺幇助を行うのを認めるケアハウスへの転院も完了していました。妻である義理祖母と子供の義父や伯母は、本人の意思を尊重するということで反対はしませんでした。孫やその他の親戚も「本人が望むなら」と異論を唱える人はいません。ヨーロッパの生活や考え方にも慣れてきたなと思っていた私は、このとき初めて「考え方の相違」を感じずにはいられませんでした。
文化的な背景以外に、私が義理祖父に思いとどまって欲しい理由がありました。その時、私は妊娠中で予定日はあと1ヶ月あまり。パーキンソン病以外の疾患はないので、何もしなければ義理祖父に曾孫を抱いてもらうことが出来ます。そんな状況を知ってか知らぬか、一度は決断した予定は、義理祖父の意思で取り消されました。彼の中にも揺れ動く気持ちがあったのでしょう。そうして、予定日を迎え私は出産しました。
出産から2週間経って、子供を連れて義理祖父のところへお見舞いへ行きました。義理祖父、義父、主人、子供と四世代一緒の写真を撮り、義理祖父はとても満足して子供の手をずっと握っていてくれました。この子の成長が、義理祖父の生きる糧となってくれるはず、とおじいさんっ子で親戚中でひとり義理祖父の自死を反対していた主人と喜んで帰路につきました。
それから数日後、やはり自死を選ぶという連絡が義父から入りました。曾孫の顔を見て、思い残すことはなくなったと。今回の義理祖父の意志は固く、日程を延ばすことは肉体的な衰えもあり不可能で、最後のチャンスということでした。日程の確認、実行の手順、お葬式などの確認があり、義理祖父は妻と二人の子供に見守られ自らの手で人生を終えました。

私はとても複雑な思いでした。丁度この半年前に、日本の祖父が94歳で亡くなっていました。年齢だけ見ると大往生ですが、人工膀胱を取り付け、最後の4年間は意識が戻らないままの寝たきりの状態でした。亡くなった時、大きな体格の祖父の面影はないくらいにやせ細り、床ずれもたくさん出来て「気の毒な状態」だったと言われていました。そんな状態になってまで生きているのが良いのか、考えさせられていたので、この義理祖父の選択は難しいながらも最後は受け入れることができました。これがもっと身近な家族だったら話は変わってくるかもしれませんが…
ちなみに、義理祖父の死を受けて、親戚のうち5人が新たに「エグジット」に入会しました。
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医療費の削減?

日本で、医療保険の削減とあわせて尊厳死が語られているようですが、スイスではこれらが関連付けられることはありません。この制度を利用する人は、医療の恩恵も受け、治療も十分に施した上で、どうしようもなくなった場合の最後の決断です。医療費との関連性はありません。外国から死を望んで移住する人も多くいるので「死のツーリズム」とセンセーショナルに書き立てるメディアもいますが、実態はそうではありません。
今年度は見送られましたが「尊厳死法案」は、また来年以降日本でも議論を呼ぶでしょう。高齢化社会になった今、国による医療制度の見直しは勿論ですが、個人でもしっかりとした意識を持たないといけないと思う日々です。

 

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