日本では冬から春へと季節が移り変わり、草花が芽吹く春咲きが旅立ちの時期。長い学生生活を終えて、社会人になる前に長期間の旅行に出発される方。別れた恋人との思い出を忘れるために、傷心旅行に出かける方。中には、自分の歩いてきた道を振り返り、脱サラや起業など、新たに人生の再出発を決意する方もいらっしゃることでしょう。
それぞれ目的は違えど、「旅立ち」という面では共通しています。今回はベトナム人における旅立ちをご紹介したいと思います。日本人にとっては、少し驚きの旅立ちもあることでしょう。それもまた異文化として興味深く映ることかと思います。
旅立ちの時期
ベトナム人の旅立ちの時期は、日本のように明確には決まっていません。四季がないため、新たな門出を祝う概念が、日本と比べて希薄なのかもしれませんね。ただ、ベトナム人にとって旧正月は一年の区切りの時期。新年を迎えると同時に、自分の生活を変えようと試みる人は少なくありません。もう一つは卒業のシーズン。ベトナム人の旅立ちは、実は小学校を卒業するとともにやってくるのです。
田舎で育つベトナム人の多くは、小学校を卒業すると同時に、ホーチミンやハノイといった大都市に移り住みます。田舎では満足する教育が受けられなかったり、低い教育レベルなので、大学に進学できない、といった新興国ならではの事情があります。
早い人で、小学校を卒業したのち、中学校の寮に入ります。引っ越し先に親類がいれば、その人の家に居候することになります。このように、ベトナムの田舎育ちの子供は、親と接する期間が短いことがしばしば問題にもなっています。「中学生から一人で暮らしていたから、親と会っても何を話していいか分からない」と仰る筆者の知り合いもいました。
彼らにとっては、決して望んだことではないかもしれませんが、人生の門出という点では、同様に旅立ちと言えるのではないでしょうか。
日本では、大学を卒業したあと、ほとんどの方は新卒として就職の進路をとりますね。しかし、ベトナムでは就職以外にも、複数の旅立ちの仕方があるのです。
まず一つが「留学」。就職するといっても、ベトナム系企業は給料が安く、福利厚生が充実していないので、大学生は不満の種を抱えています。そこで、多くの学生は、在学中に習得した語学のスキルをさらに実践的に磨くために、留学を考えます。無論、外国へ送り出すことができる裕福の家庭が主ですが、中にはベトナム戦争時代に各国に散らばった親類もいますので、その方たちをあてにすることもあります。学生に人気の留学先は、アメリカ、日本、中国、韓国、オーストラリア、フランスなどです。アメリカは高額な授業料ですが、富裕層に絶大な人気があります。留学先で1年から2年語学を学んだのち、ベトナムへ帰国して就職すると、給料の基本給がぐんと高くなることも留学が多い理由に挙げられるようです。
そして、もう一つが「旅人」という進路です。
もし日本で「大学を卒業して、すぐに就職するのは嫌だから旅に出る」なんて言ったら、少し変り者ですね。もしかしたら、のちの就職活動にもマイナスの影響が出るかもしれません。しかし、それは日本での話。
ベトナム人の中には、「卒業してすぐに働くのはもったいない。とりあえず遊ぶ!」と旅に出る人が少なくありません。旅先が国内なのか、海外なのかは旅の期間やお財布事情によって異なりますが、日本人からすると、なんとも思いきった決断だとは思いませんか。
ベトナムでは、まだ『会社の正社員として働く』という概念が薄いように感じられます。ベトナム戦争が終わって、今年でちょうど40年。依然としてベトナム人は何者にも縛られることなく、自由に生きるのをモットーにしているようにうかがえます。